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特殊清掃 遺体に関するお話
ガンの家系ではなかったし、あまりにも突然で涙さえ出なかった。
医師は「いいといわれることは、何でもやったほうがいい」と言う。 それから、検査、結果、検査、結果と一週間おきに病院に通う日が始まった。
待合室で見ていると、症状の軽い患者から診療しているようだ。 私はいつも最後に回される。
根が単純なものだから、医師に「ガン」と言われれば、そんな気もする。 朝、洗面所で鏡を見ると、自分の顔が何となくドス黒く見えたし、歯磨きをすれば吐き気を催すのだ。
ちょうど『命』(作家の柳美里氏がガンに冒された元恋人・東由多加氏を看取る自伝的小説)という映画が上映中で観にいったが、映画館を出た時にはもうすっかり悲劇のヒロインになり切っていた。 感傷的になる部分と妙に現実的になる部分とが、私の小さな体の中で交錯する。

昼は短く、夜はとてつもなく長いものに感じられた。 夫は海外勤務のサラリーマン。
私を支えてくれるのは、16歳のひとり息子だ。 息子の足にはミサンガ(ブラジルのお守りの一種。
手首、手足にリボン、ビーズなどを巻いて願掛けし、切れたら願いが叶うとされる)が巻かれてあった。 東京・谷中にある、私の実家のお墓へお参りにも行ってくれているようだ。
人間とは、つくづく無力なものだと思った。 明日死ぬと宣告されても一体何がけだった。
寝不足のせいか、夜、急に心臓が苦しくなることがあるため、息子が同室でお互いの顔が見えるように寝てくれていた。 普段は朝起こしても、なかなか起きられない息子が、私が寝返りをうっただけで「お母さん、だいじょうぶ?」と起き上がる、緊張の日が続いた。

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